駐車場を科学する。㉓ リパークを例にとって

継続性と蓄積性 事業を開発するに当たって、この二つの要素は欠かせませんでした。

当時、今もそうなのですが、私の勤務していた会社の事業は、中古住宅の仲介(これを「不動産流通」と呼んでいたわけですが)がメインで、いくら頑張って成果を上げても、月が替わると前月の成果はご破算で、ゼロスタートになります。

毎月、毎月このやり方だと、疲れてしまう社員も出てきます。できたら、毎月、恒常的に収益が上げられるスキームはないかなあ?というのが現実としての要求でした。
それには、モノで=施設で、稼いで貰うのがいいんじゃないの?と、賽銭箱を置くことを考えたわけです。

この賽銭箱のおかげで、毎月、収益が上げられます。更に良いことは、毎月上げられるということは、蓄積性が効く、ということで、事業地を増やせば増やしただけ事業は成長する、ということになります。

本業にプラスの事業領域を開発し、収益構造の欠陥を補う、いわば一石二鳥の事業スキームが可能になったのです。
ただ、実は、更に良い効果を上乗せできるのです。

駐車場を科学する。㉒ リパークを例にとって

『タスク補完型事業開発』とは言いましたが、現実にはどういうことか。

当時の、多分今も、我が社のタスクは、空間価値の適切な配分、流通でした。
空間価値は、二面あって一つは現実の利用性、もう一つは投資価値です。
その二つの空間価値の創造、配分、保持、改良等に資する(必要な)事業で、やっていないものは何か?
それらをリストアップし、まだ手掛けていない分野、不十分な分野をあぶりだします。
そこに出てきた分野で、その時点で市場性がある事業をやろう、と考えると、新規事業が浮かび上がるわけです。
(当時でも、賃貸関係、リフォーム関係、商業その他の業務関係等で手付かずの分野はかなりあることを思い知らされ、少々落ち込みました。)

但し、それらをどう組み立てれば=事業化すれば、タスクに寄与するか、かなり繊細な吟味が必要です。
また、どのように事業を経営すれば効果的か、シナジー効果も生み出す必要があります。

駐車場については、どのように考えたら良いか。
家とクルマ、この二つは親和性があります。両方とも人間のシェルです。片方は静的、もう片方は動的、この両者が相俟って人々の生活が形成されます。家は、クルマがあって価値を増すと言えましょう。ですから家の販売のとき、車庫の有無が問われるわけです。
これを社会という次元で考えると、駐車場があるから街の価値が上がる、上がらないまでも価値を持続できる、ということも言えるのではないか。
車庫とか駐車場は、動的な世界と静的な世界をつなぐ結節点のようなものだったのです。

牽強付会のそしりは免れないでしょうが、そんなロジックを立てました。
一見、関係のないと思っていた 家と駐車場、これで論理的整理はついた、ではこれで進めよう、とはなりませんでした。

まだまだ整理事項はあったのです。それは継続性蓄積性です。

駐車場を科学する。㉑ リパークを例にとって

今日は “組織における” 新規事業開発について述べます。
私は、平成2年、事業開発室が新設されたとき、初代室長に就任しました。その当時の我が社では、「室」というのは、「部」にするには規模その他で不十分ではあるが、業務領域が独特で他とは纏められないような場合設けられた組織でその長に就いたのです。

責任者として新規事業の開発をしなければならないのですが、室長の私からして事業の開発なんてやったことがありません。
事業の開発ってどのように考えたら良いのか。


白紙から勉強することにして、あるコンサルティングファームと提携し、基本的な、フツーの方法によるアイディア出しからコンセプトの纏めまでやりました。しかし、当然といえば当然のことながらこれで一丁上がり的なコアな事業は見い出せませんでした。
マンパワーが足りなかったのです。
人事も努力してくれたと思いますが、我が社に事業開発適性のある人材なんてそう沢山いないし、人事も見抜く力なんかありませんでした。

マンパワーの不足を補うため、「社内起業家制度」というものを作り、その募集をしました。結構、応募はあったのですが、その多くは「こんな事業をやるべきだ。但し、誰かが・・・」というもので自分自身で担っていこう、という案件は稀でした。
まあそんなもんでしょうね。

どうしたもんだろう、そこで一から考えました。何故、新規事業を開発しなければならないんだろう、事業開発にどんな意味があるんだろう。
当時、経営ものは良く読んでいたのですが、会社の寿命20年説ということが言われていました。関西の商売のように商いは飽きない、牛の涎やという説もありましたが、これは別の言い方では、おできと商売は大きくしたらアカン、必ず潰れる、ということにもなり、事業は発展しません。
多角化の危険性も指摘され始めていました。バブルで各社とも珍奇な商売を始めたのは良いのですが、その会社にふさわしい成果を挙げられなかったのです。
でも黙っていたら20年説になってしまう。


私は、こう考えました。
社会的に存在意義がある会社は、その意義がある限り生きていく。その意義を全うするのに、まだ不足があるなら、その不足を補う限りにおいて新規事業の開発は正当性がある。まず社会的意義、タスクを鮮明にし、それを充足させる要素を吟味していく。その中で不十分なものがあったら、それをテーマに事業を開発しよう。不足、不十分を補う、いわばサッカーなどのスイパーの役割を果たそう。
若し、全て充足したら、次には社会的意義、使命をもうワンランク上げよう。そうすれば、当然のこととしてまた不足、不十分が出てくる。それをこなしていこう。
これが順調にいけば、無限連鎖というか経営の永久運動が成り立ち、経営に裨益するだろう、と考えたわけです。

分かりにくいと思います。次に、具体的に書きます。

駐車場を科学する。⑳ リパークを例にとって

物量的に考えることについて、ドクターリパークについては前回のように考えましたが、そもそも時間貸し駐車場を事業化するとき、どう考えたかについて書きます。

時間貸し駐車場のビジネスを考えたとき、まず、クルマってどのくらい、水平投影面積を食うんだろう、と考えました。一つには車室の大きさの問題もあったのですが、そもそも、こんな代物がどれだけ、我が国の希少な平面空間を食っているんだろうと疑問を持ったからです。
軽自動車で全長3.4m以下・幅1.48m以下とされています。5ナンバーで全長4.7m以下、かつ全幅1.7m以下、当然、目一杯とりますから、以下といってもこれが大きさです。3ナンバーはこれを超える、ということでしょうね。
私は身長1.79m、横幅は測っていませんが、多分1mは無いでしょう。これでも日本人としては大きな方です。
これを水平投影面積で比べると、軽自動車の面積の中に何人立てるか、軽は3.4×1.48=5.032ですから人間を1×0.5=0.5とすると10人はいけます。また寝ても人間は1.8×1=1.8として、これで割ると2.795…となります。まあ3人は寝られますね。この軽自動車が何台走っているかというと今年は3千万台以上走っているし、バス・トラックとかを含めると7千8百万台以上走っている。人口は1億2千万人以上と言っても水平投影面積では勝負にならない。
しかも、それらが猛烈な勢いで動き回っている。「家」の合計総面積も大きいでしょうが、これはクルマの方が面積を食うんだろうな、と思いました。
不動産屋は、どうしても水平投影面積を基本に考えます。そんな観点から考えるとこの巨大な面積食いを制御するには、不動産屋が立ち上がるしかない、と考えたわけです。
そしてこの巨大な面積食いを対象にしたら、それらが貴重な水平空間資源を消費するとしたら、結構大きな事業になるんじゃないだろうか、と考えた次第です。
(まだ、自動車すべての稼働時間は計測されていません。しかし、例えば駐車時間が平均6時間とすると、7千8百万台×6時間/24時間=1950万台、これに水平投影面積を掛けると必要面積が出ますよね。勿論、静的には、自家用の駐車場で賄っているわけでが、滲み出てくる需要だけでも相当ある、と踏んだわけです。)

原始的といえば原始的ですが、事業のアウトラインを掴むときはこんなもんで許して下さい。このサイズ感を基に、企画立案していきました。

駐車場を科学する⑲ リパークを例にとって

計測する、ということは、不動産業では余りありません。確かに土地の広さだったり、駅からの距離だったり、測ることが必要なことは多々ありますが、いずれも静的で其れほど難しい作業ではありません。では、何故私が計測にこだわるようになったか、というと、若い頃の刺激によるのだと思います。

昔、半世紀も前の話ですが、戸部秀という方が書かれた「仰ぎ見る大樹」という本を読んだことがあります。杉 亨二という人の伝記で、この方は「日本近代統計の祖」と言われる方です。日本が明治維新で開国を迎えたとき、一国の盛衰は、統計にあり、との信念の下、我が国の産業分野、人口等の統計の確立に努力された方です。
本を読んでいても、登場人物は多いし、維新のこともよく分かっていなかったので、えらい難しい本を選んでしまったなあ、と後悔しながら、読んだ記憶があります。
ただ、読了後、普段は意識しないけれど、統計、その基になる調査って重要なんだなあ、と思った記憶があります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%89%E4%BA%A8%E4%BA%8C

順序は覚えていませんが、矢張りその頃、ミツトヨグループの創業者、沼田 恵範の記事を読みました。この方は、よくホテルの引き出しに入っている「仏教聖典」を配り始めた方です。後年、私の会社の同僚がお坊さんになり、食えないので「仏教伝道協会」に雇ってもらってホテルを巡っているんだ、と話していました。沼田さんはお寺の子で、仏の教えを広めたいのだが資金が無い、それならいっそ事業を興そうと、ミツトヨを創業しました。このミツトヨは、マイクロメータなどの精密計測器を作っている会社です。何しろ心がけが良いので安心してお付き合いが出来る素晴らしい会社で業績も良いようです。
では、沼田さんは何故、精密計測器を作り出したか、それは、科学技術の進歩は計測技術に依る、との教えに啓示を受けたからだ、と述べておられました。
華々しい科学上の発見、精妙な技術の進歩、その基礎には計測技術があったのですね。

https://www.mitutoyo.co.jp/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BC%E7%94%B0%E6%81%B5%E7%AF%84 

片や国の政策、片や科学技術、側面は違いますが、これらの本で「測る」ということの重要性を学びました。

後年、サラリーマン生活を送るのですが、いつも、仕事のサイズとか対象の動きとか、測る、ということを重視してきました。私は数字に弱くそれが弱点なのですが、それでも常に物事を物量的に考えています。
測るということは、細かい数字の羅列ではなく、ロジックでもあるからです。
1+1=2という原理は、変わらず、それが1+2になれば=3になるからです。
測ることで、隠された構造に迫ることができるからです。

駐車場を科学する⑱ リパークを例にとって

前回、ドクターリパークについて書きましたが、ここで、駐車場を『科学する』ことに触れさせて下さい。

駐車場事業を企画しているとき、常に胸に去来していたことは、次の2点です。
1、今までないスキームを創造し、社会のインフラを作る
2、そのためには、ヤマ勘や夢想を廃し、科学的な方法を執る

1、は三井不動産グループのお家芸で、我が総帥、枝村社長の口癖でもありました。私も、これからも事あるごとに口にするでしょう。

ただ、ここでは、「科学的な方法」に関する2、について書きます。
では、(駐車場を)科学する、とは如何なることか。
恥ずかしながら、私見を述べさせていただきます。

①先ず、対象(現象)を観察します。
対象、現象を、見て、観て、看尽くすことから始めます。
トヨタ生産方式の原則の一つとして有名な、5W1Hがあります。この5Wとは、Why?Why?Why?Why?Why?とWhy?を5回繰り返し、最後にHowを行う、という考え方で、私も常に仕事に応用しています。疑問を抱き、更に疑問を考え、5回繰り返し、初めて改善策を考えて良い、という縛りで、安易な弥縫策を考えることを厳しく禁じています。私などは、すぐに、「ああすれば良いじゃないの」とか言ってしまって、冷や汗をかきます。
ただ、私見によるとこのWhy?の前に矢張り、Watchを5回繰り返し、観察を重ね、現状を把握するべきだと考えています。
WatchWatchWatchWatchWatch!ですね。

②次いで、隠された「構造」を発見します。
どんな現象も、見える部分の下に隠された体系的な構造が潜んでいます。今は目には見えないけれど、その多くは歴史的に潜んできて、また、一見すると関係ない領域に影響され、繋がりながら、ある構造体をなしています。
この構造が明らかになると、現実との矛盾、歪みの原因が分かってくるので、その対応策を立案することが出来ます。
この「構造」という概念は、ちょっと分かり辛いかもしれません。どうみても「構造主義」に影響されてますね。済みません。追々、実例で示していきたいと思います。
③最後に、どうしたら良いかの、対応策を立案します。
上記のように、効果的な案を考えることは大変ですが、いずれ失敗に終わるのですから(状況が変化するので、絶対に失敗するわけです。)、何故、この案にしたか、という具体的な根拠を示しておくことが必要です。失敗した時、何故かの判断の重要な基準になるからです。
④そしてこれを実行します。
あとは実施結果を観察し、構造を発見し、立案し、実行する、この繰り返しを行っていくことになります。

大袈裟な書き方をしましたが、お気付きの通り、所謂、PDSサイクルを回す、ということ同じです。
*因みに、PDSサイクルとはPDCAサイクルと言われているものの原型と言われるが、これも私見によるとPDCA自己完結型で、次のサイクルを形成し得ないと思われる。
そのサイクルに留まるため、ダイナミズムに欠け、実用性にも欠ける。
また、サイクルは観察(See)から始まる、と指摘する論者もおり、全く同感である。
(杉浦 司 http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0405/18/news072.html

なお、当然ですが最初の観察は、対象となる現象の観察、次回からの観察は実施した結果の観察となります。
観察に重点を置いているのがお分かりだと思います。では、この観察をどのように行うか。私も、まだ未熟でその手法をよく会得していません。ただ、観察をビジネスに結び付けるには、「計測」という手法が必要になるでしょう。
次回は、この計測を。

 

駐車場を科学する⑰ リパークを例にとって

ということで、メガパーキングを始めたわけですが、そのための武器となったのが、「ドクター リパーク」です。
デジタルの画像が残っていないので、そのイメージを載せることが出来ませんが、普段使っていたMr.リパークに、白衣を着せ、おでこに丸い鏡、首からは聴診器を下げた可愛いイメージのキャラをデザインしました。要はお医者さんに譬えて、駐車場の利用状況の診断システムを作ったのです。

1日のうち、何時間利用されているか、どの時間帯が混んでいるのか、1週間ではどんな動きになっているか、等を診断し、記録するシステムです。
なんでこんなことを行ったか?

街を歩いていて、駐車場を見掛けることは間々あると思います。どれくらい入庫していますか?多くの場合、まだまだ空きが多い筈です。
月極め駐車場の場合、夜間は停めておく必要があるものの、昼間は、クルマは営業のため駆り出され、空いてしまっているわけです。一方、時間貸しの駐車場は、まさに仕事のためにあるわけで、昼間の活用は多いが夜は自分の駐車場に帰るので利用は少ない。
但し、これらの比率等は立地によって異なるため、矢張り実地に調査し診断する必要があったのです。
時間貸しだけでなく、大規模な月極め専用駐車場の場合も、本当は何台分用意すれば良いのか分からない。これも調査が必要です。
そこでリアルな利用状況を把握するために、ドクターリパークという診断システムを考えたというわけです。
現実には、月極め専用の駐車場だったら観測員が現地に赴き、目視で調査しました。出入庫の記録についてはノートでは埒が明かないので、TQC、現実の品質管理、その他物流計測等で使われていた機器類を探し、九州松下のハンディ記録器などを利用していました。ゲート型大規模駐車場などは、精算機に付いている「ジャーナル」などを利用し、分析しました。

調査結果は、数字でも残しますが、棒グラフ、折れ線グラフで表現します。すると、上の方に棒が伸びてない空白のところが出てくるわけですが、ここが車室の未利用時間となります。駐車場の賃料、電気代その他の管理費は、全車室に一律に掛かってきます。それなのに、未利用!この部分なら利用すればするほど、収益に寄与することになります。たとえ1時間10円でも、一晩、100円でも。
こうして、駐車場の利用状況を把握することができます。それに伴い、価格設定、利用形態(夜のみ利用等)も考えることができます。
混合型メガの場合は、どれくらい時間貸しのキャパを設定するか、オール月極めの場合は、何パーセント、契約台数を増やすことができるか、データに基づいて確信を持って決定できるようになったのです。
いざ、始めてみると、左程難しいことではありません。しかし、我々が計測システムを導入する前は、誰もやっていなかったのではないでしょうか。
そこで、一応、ドクターリパークのアルゴリズムを特許申請しました。ご案内のとおり、申請することと特許が認めれることは全く別次元ですが、それでも特許申請中とは謳えるわけです。さあ、やるぞ!と腹を決めて営業活動に邁進したのです。